関節円板のずれ
NebbeとMajorによる矯正治療前の12才前後の子供134名に関節円板の転位(ずれ)がどのくらい存在するかMRIを用いた調査です。驚くべきことに、男の子では約60%、女の子では85%にすでに片側または両側で円板がずれていました。
片側または両側の顎関節の関節円板がすでに転位している割合
(カナダ アルバータ州の大学病院矯正科での調査、2000年)
動物実験からもわかる顎関節の重要性
動物実験で右側の円板の転位を作り出すと、下顎の成長は右側の成長が抑制され、正中は右側に偏位することがわかりました。ちょうど車の運転中に右側のみブレーキがかかったような状態です。このとき右側の下顎は長さが短くなるだけではなく、高さも抑制されました。この実験が示すように、円板の転位は、下顎の成長にも大きく影響し、顔の非対称、ゆがみのもとになります。もちろん咬合にも大きな影響を与えます。
さらに最近のスウェーデンの同じく動物実験で、一時期アメリカにおいて下顎の小さい患者にファンクショナルアプライアンス(下顎を前方に出す装置)がよく用いられていましたが、それを円板の転位したウサギに用いて下顎の成長を観察しました。結果はその装置を用いなかったコントロール群と比較して、かえって抑制されていました。成人でも円板の位置は機能の維持、骨格の保持に重要ですが、小児での円板転位は下顎の発育にも大きな影響を及ぼします。
顎関節と円板
それでは実際の患者のCT・MRIの画像を通して、顎関節の仕組みを見ていきます。それぞれのCT・MRIは同じ患者のものです。
顎関節の模式図
黄色の部分が関節円板です。正常では関節窩と下顎頭の間に緊密に存在し、顎の動きとともに移動します。
正常な顎関節
円板は軟組織でCT像では見えませんが、MRI像では黒っぽく見ることができます。円板のポステリアバンド(後方のふくらみ)は時計の12時の位置にあります。
CT像で円板は見えませんが、下顎頭や関節窩の骨の状態や位置関係で、顎関節自体の健康度はこのCT像でわかりますし、円板の位置、状態も予想できます。
関節円板が前方に少し転位した例
12才の患者です。自覚症状はほとんどありませんが、円板が前方にずれ出しています。顎関節内での下顎の位置はやや後方になり、これが右側で起これば、下顎の正中は右側にずれて、同時に右側の臼歯が強く当たるようになり、歯牙のすり減りが始まります。
関節円板がさらに下顎頭の前にまで転位した例
関節円板がさらに下顎頭の前にまでずれてしまいました。クリック音、つまり口の開閉時にクリクリという音がして、患者自身も症状を自覚するようになります。時々開口しにくいロック状態が短い時間起きることもあります。そのとき痛みを感じることもあります。この状態になると次のステージに進行しやすくなります。
関節円板が大きく転位した例
関節円板は完全に前下方にずれました。顎が引っかかって大きく開口できないロック状態が起きたり、開口時に痛みが出ます。関節の骨構造が変化し、下顎の位置は大きくずれ出すことがあります。ただ少数ですが、何の自覚症状もなく、この状態にまで進行していることがありますし、小児でも認められます。